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2017/12/22

モーターサイクルをアートに。世界が認めるカスタムビルダー・木村信也

モーターサイクルをアートに。世界が認めるカスタムビルダー・木村信也

名賢人が歩んだ歴史に注目

もしこのヒトがいなかったら……。身近にあるカルチャーやプロダクツが、たった一人の日本人が先駆けとなったことで、世界に大きな影響を与え、文化を築き上げていた。そんなレジェンドと呼ぶにふさわしい賢人に注目した。

そんなレジェンドの一人、木村信也さんはLAの郊外の工場で黙々と独創的なカスタムバイクを生み出し続ける日本人ビルダー。カスタムビルドに精を出す一方で、バイクの性能を試すレース参戦も欠かさない。製作するバイクがアートと評価されるビルダーがたどり着いた「カスタム」の答えとは?

 

「走るアート」は己の価値観でオリジナリティを追求した結果

日本のモーターサイクルカスタムシーンの黎明期にその名を広め、今では世界のトップビルダーとして君臨する木村信也さん。当時は愛知県の岡崎市で『ゼロ・エンジニアリング』の代表として数々のカスタムバイクを世に送り出し、海外でもその独創的なスタイルを「ゼロスタイル」と形容する言葉が生まれるほどにシーンにムーブメントを巻き起こした。そして、日本にいながらアメリカの名誉あるカスタムショーのベストアワードを獲得するなど、世界にその名を轟かせたさなか、2006年に拠点をLA郊外のアズサに移し、『チャボエンジニアリング』をスタートさせた。

木村さんはいまも、アズサの工場で寝泊まりして黙々と金属を削り、試行錯誤を繰り返しながら一台一台のカスタムバイクを創作している。そんなモノ作りに没頭したシンプルなライフスタイルを送るなか、世間からは『走るアート』を作るアーティストと称されることが多いが、本人はアートを意識したカスタムビルドをしているつもりはないと言う。

▲木村さんのカスタムビルドはオーナーの体格や乗り方を考慮した上で、すべて手を動かしながら頭の中で描かれていく。「ラフを描けばそれに従う作業は退屈になってしまう。考えながら同時進行で手を動かすから、最終的な形は正直ぼくも完成するまでわからないんですよ(笑)」

▲カスタムのベースにする車両はメーカーや新旧は問わず、ベースモデルにリスペクトがあるものを選ぶと言う。写真の車両は2000年式のツインカムソフテイルをベースに、無機質で兵器的なイメージを落とし込んだ“KIRIYA”。アルミでワンオフ製作した外装やロー&ロングの攻撃的なフォルムにチャボのスタイルを見る。

 

乗る人が気に入ってくれるものを創り出す

「カスタムバイクは確かにアーティスティックな頭も必要ですが、あくまでも半分はメカニックの頭でなければいけない。僕のバイクは走る、曲がる、止まるというバイクが当たり前に持つ性能が大前提にあって、その上でオーナーに合う僕の好きな形に作っているだけです。例えば、’50年代とか’60年代頃のレーサーは僕にとってはアートに見えるけど、当時の人たちはアートを目指したわけではなく、スピードを追求した結果ですよね。アートと評価してもらえることは嬉しいですが自分ではそう思っていない。捉え方は見る人に任せています。極端に言えば、僕のバイクはほとんどがお客さんに1対1で作っているから99人の人が嫌いでも乗る人が気に入ってくれればそれでイイ」

▲キャノンボールとランドスピードレースには毎年参戦している。いちバイク乗りとしてレースを楽しみながらも、自分が製作したバイクの機能面を試す場であると捉えている。「メカニックとしての緊張感を保つ意味でもレースは欠かせない、趣味と仕事の架け橋のようなものですね」

 

変わらない木村さん独自のテイスト

ゼロ時代から木村さんの作るバイクのスタイルは変わり続けながらも、常に変わらないのは、あくまでも木村さん独自のテイストであることだ。日本でもアメリカでも、今のストリートではオールドスクールなスタイルが流行しているが、木村さんが製作するバイクは過去の時代感で語ることができない独創的なものとなっている。

▲木村さんがボンネビル、エルミラージュともにランドスピードレースに参戦するナックルレーサー『SPIKE』。1946年式ハーレーのFLをボアアップして自己最高速度202kmをマーク。

「昔のチョッパーやボバーの形ももちろん好きですが、それを作るのは僕の仕事じゃない。当時のビルダーたちはまだ見たことがない未来を見て作っていたのに、今それとそっくりなバイクを作るのは過去を見て作ることになる。結果として同じバイクができても考え方は180度違うし、作り手はまったく別の人種だと思うんです。僕のバイクは何かにカテゴライズされたくないし、自分の価値観で作りたいと思っています」

▲1973年式カワサキZ1をベースに木村さんが持つZ1のイメージとオーナーのスタイルを融合させた『PANTERA VERDE』。レーシーなアルミ外装にカワサキのブランドカラーであるグリーンを描いた。

木村さんのアイデアは過去の偉人たちが築き上げた歴史や、世の中の流行に左右されることのない独自の創作活動の中でのみ生み出される。借り物のアイデアを昇華させるのではなく、ゼロからすべてを自分の頭の中で築き上げた自分の価値観の集合体が木村さんのスタイルとなっているのだ。いちバイク乗りの視点とカスタムビルダーとしての誠実さの中にこそ『走るアート』の真の姿がある。

 

●木村信也/Custom Builder
’91年、愛知県名古屋市の山奥でリペアショップ・チャボを創業。日本にいながらアメリカの名誉あるカスタムショーのベストアワードを獲得するなど、数々の賞を受賞する。2006年にはLA の近郊のアズサに移住し、チャボエンジニアリングを創業。当時から変わらず現在もLA郊外の工場で独創的なカスタムバイクを生み出し続ける日本人ビルダー。

 


 

『Lightning 2018年1月号 Vol.285』より抜粋

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